飛行機がこわくて旅が楽しめるか!
乗り物に強いかと聞かれれば、昔から得意なほうではなかった。最近、前にも増して弱くなっている気がする。ユニバーサルスタジオジャパンにあるハリーポッターのアトラクションは、登場当時は大丈夫だったが、カスタムを重ねられ、ユニバが本気を出すにしたがって私の足は遠のいていった。あの数分で上下左右がシェイクされてしまう感覚。ハリーポッターの世界観が大好きなだけに、それに耐えられない自分の三半規管が憎い。
アトラクションは少し大げさに揺さぶってくるから、こわいとか、酔いやすいとか、そんな感覚もまあしょうがないと思っていた。が、近頃は車、電車、飛行機もこわいと思う瞬間が増えた。助手席に乗っているときのスピード感、カーブの多い路線、悪天候時のフライト。特に悪天候時のフライトは最悪だ。身体の自由が一番きかないからだ。トイレへ行けない、止めることもできないのでただ耐えるしかない。
つい先日、台風がギリギリ逸れた沖縄へ行ってきた。離陸時は快晴、快調。着陸時は気流の影響で地獄のようだった。飛行機は20分ほど前から着陸態勢に入る。高度が下がるにしたがって、揺れがどんどん強くなってくる。アナウンスは乗客を勇気づけるように「安全には問題ありません」をくり返す。ほんまかいな。
私の中での「酔い」には、いくつか段階がある。「あーちょっと揺れるなあ」から、徐々に思考もぐしゃぐしゃになり、最後は揺れる頭、胃、胸やけ、すべてを抑えつけるように数字を数え出す。数字は無機質で冷たいイメージがあるからだろうか、誰からも教わらなかった方法で今の私の人生の役に立っている。今回の沖縄は私のフライト史上最悪に酔ったため、数字を数え・・・・・・しかしその数字もついにカウントをストップせざるをえなくなった。
酔いメーターがレッドゾーンにまで振り切った私は、「もうだめだ、気持ち悪い・・・」的なことをぼそぼそと隣に座っている妹に伝え、目の前の紙袋をさっと取り出した。が、ご存知だろうか。あらかじめ座席に用意されている紙袋は、さっと取り出しぱっと開くことはできないのだ。ご親切に「きりとり線」と「きりとり線からお切り取りください」の文字が添えられている。
グロッキーになっている人間が、果たしてきりとり線をお切りすることができるだろうか。私の場合、紙袋に書かれている何らかの文字(酔いすぎて文字が認識できない)を見た瞬間、だめだと判断し、隣の妹にパスした。瞬時に書かれている文字を理解した妹は、揺れる飛行機の中でチリチリと紙袋の口を切り取って私によこしてくれた。
結果、吐きはしなかったが、えずくには紙袋は大いに助かった。
アナウンス通り「安全に問題なく」無事着陸した機体は、死屍累々。ドアが開いてもほとんどの人は立ち上がらなかった、いや立ち上がれなかった。CAさんに着陸してからお水をサービスしたもらったのも初めてだ。さすがCA、顔色一つ変わっていない。飛行機は飛ぶ高さだけではない怖さがあるなと悟ったフライトであった。
それから数ヵ月が経ち、東京へ行くことになった。なるべく飛行機を避けたかったが、時間も費用も飛行機がよかったので、意を決してフライト予約をした。今回は一人旅だ。乗る前は沖縄のグロッキーフライトがよみがえり、怖くなった。座席は、あえて両隣がすでに埋まっている3人席の真ん中をチョイス。そのほうが安定しているように思ったからだ。知らんけど。
空港はあちこちへ向かう人々で溢れ、活気があった。空港グルメもお土産も見逃せない。国内線だったが1時間前に到着してウロウロ。肝心のフライトは、行きも帰りも少し揺れはしたが、快適な空の旅だった。座席に付いているモニターでエンタメも楽しめた。これなら何度でも乗って良いと私はごきげん。天気も気候も良く、ラッキーなフライトだったのかもしれないが、大人になってから苦手意識が克服されると自分もまだまだ伸びしろがあるなあなんて気持ちになった。単純。熱さも喉元を過ぎればなんとやらとはこのことか。